「健康って何だろう」

私は東洋はり医学界の会員です。

東洋はり医学会は脈診流経絡治療というはり灸の治療法で日本のあちこちで知られるようになった団体です。

また最近はわたくし共の会の名誉会長村上三千男先生の治療がネット上で話題になっています。
先生のところでうつの治療を受けられた患者さんが載せた「うつが完治した」というブログが評判になり、全国各地の会員のところに患者さんが来院しているのです。
もちろん私のところにもこのブログをご覧になったうつの患者さんが何人もお見えです。

その東洋はり医学会のホームページを見ますと今一つ東洋医学的観点から見た健康観というのが十分反映されていないように思えます。
そこで私なりの健康観をぜひ本会ホームページに掲載してほしい旨投稿いたしましたところ、いずれその記事が載ることとなりました。

その前に本欄を通じ、私の思う健康観を書いてみたいと思います。

皆さんは「あなたは健康ですか」と聞かれたら何と答えるでしょう。
最近のたくさんのサプリメントのCMの影響もあり、「腰が痛い」、「膝が痛い」、「肩がこる」、「少しだけ血圧が高い」などと感じ、自分は健康ではないと思っている方も多いかもしれません。

では「あなたにとって健康とは何ですか」と再び質問してみるとーー

「健康診断や人間ドックで異常なしというデータが返ってきたときかな。」と答える方もおられることでしょう。

たしかに健康診断や人間ドックは健康状態を総合的に知るための現代医学にとって最も有用な方法です。
しかし、これらの検査結果で異常が発見されなくとも、なんとなく体調がすぐれないという方もおられますし、多少検査数値に異常があっても元気に毎日を過ごされている方もおられます。

それはなぜなのでしょう。

そこでちょっと東洋医学の健康観をのぞいてみることにしましょう。

昔、時代劇や落語の一コマにお酒を飲むシーンでこんなセリフを口にする者がいました。
「すきっ腹にこうぐうっと御猪口(おちょこ)をあおると酒が五臓六腑に染みわたるねえ。」

東洋医学ではこの五臓六腑とそれらを連絡している経絡という東洋医学独自の循環路の状態とそこを臓腑経絡を栄養している気血というもののバランスにウエイトを置いて健康というものを考えていました。

「五臓六腑」とは心臓や腎臓、肝臓といった臓器や胃や小腸、大腸、膀胱などといった器官のことです。

「経絡」とはこれらの臓腑間を連絡する通路です。
経絡の存在はまだ科学的に証明されているわけではありませんが、今日でいう地下鉄の線路網、航路などと考えていただければよいかと思います。

また、臓腑経絡を巡る「気血」は一言では表現できませんが、今日で言えば食物から取り入れた栄養素であり、大気から取り入れた酸素だともいうことができます。
が、考えようによっては「気」は素粒子に近いものだとも言えますし「血」は遺伝子と関係があるとも言えるかもしれません。
ということで「気」と「血」は私たちが生命を維持するための酸素と栄養素とだけとするには少し内容の異なる奥の深い物質だと考えることができます。

さて、東洋医学での「健康とは」ですがーー
この臓腑経絡とそこを巡る気血のバランスが保たれている状態が「健康である」と考えているのです。

別の言い方をすると、この臓腑経絡と気血のバランスが失われた状態が病気だと考えるのです。
したがって「腰が痛い」、「膝が痛い」、「肩がこる」、「血圧が高い」などの症状が起こるのはこの臓腑経絡のバランスと気血の循環が悪い結果だと考えているのです。

膝が痛い原因が軟骨のすり減りや半月板の傷みによる滑膜の炎症といった場合、臓腑経絡のひずみがあるからといって軟骨や半月板を修復することはできません。
脊椎そのものに何らかの異常があって腰痛を起こしている場合、脊椎自体の問題が解決されなければ痛みも改善されないかもしれません。

しかし、これらの異常がまだ初期の段階であれば修復に望みがあります。

つまりこの段階で臓腑経絡のバランスを整え気血の巡りを良くすることで膝痛や腰痛を改善できる可能性があるということです。

ではいろいろな症状の原因となっている臓腑経絡のアンバランスや気血の巡りの状態はどのようにしてわかるのでしょう。

私たち経絡治療家は患者さんの体質、皮膚の状態の観察、声、訴えをよく聞き東洋医学的に分析すること、腹部の状態や脈を診るなど患者さんが提供してくれる様々な情報を手掛かりにどの臓腑経絡に異常があるのか、どうして気血の巡りが悪いのかを解析し患者さんの状態に応じた的確な治療を行います。

私たちが行う経絡治療という方法は3千年の伝統に臨床経験を加味しながらより良い形で患者さんの健康をサポートします。

どうぞ一度私たち経絡治療家の元をおたずねいただき、はり灸の神髄を堪能していただければと思います。