三方良し

先日ある商売をされている患者さんがこんな話をしてくれました。
「先生、近江商人の心得として『三方よし』っていうのがあるんだけど知ってるかい。」
「何ですかそれ」と私が聞くとこう教えてくれました。
「やあ、こういうことらしいんだねえ。
売り手も買い手もそして世間もみな良しというような商売をしなさいっていうことなんだそうだ。
私はいつもこれを心掛けて仕事をしてるんだけどね、なかなかそれが難しいんだよね。」
「それって具体的にはどういうことなんですか。」と私。
「ああ、それね。
売り手、つまり私どもも満足する。
買い手、つまりお客様も満足する。
そしてこれが一番難しいんだけれど、私たちの商売を通じて社会に何らかの貢献するっていうことだな。」
そんな話をしているうちに治療は終わったのですが・・・・・。

あとでこの話をじっくり考えてみると確かに商売をしていて私もあなたも世の中も皆が満足するような商売はとても大変なことだと気付きました。
そしてそれは商売にだけいえることではなく、常にだれかを通じて世の中と対峙している私たちの日常や仕事でも心掛けなければいけないことだとも。

ところで、私がかかわっているはり灸という仕事。
私だけが患者さんの病苦を取り除いたような気になっているだけで本当においでいただく皆さんに喜んでもらっているだろうか。
世の中に何らかの形で貢献しているだろうか。
そう自問自答すると少し反省でした。

とはいってもこの仕事、病から1日も早く抜け出したいという方にはり灸を通じて笑顔を取り戻して差し上げることができる。
それだけの優れた技術を持てば十分社会にも貢献できる素晴らしい仕事だと思います。
ただ、私にそれだけの技術力があるかどうか、そこが反省点なのですが・・・・・。

商売だけではなく、世の中自分だけが満足すればそれでよいという風潮が蔓延している今日、もう一度近江商人の心得「三方良し」、みんなで考えてみたいものです。

ワンフォーオール

「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」。これはフランスの作家アレクサンドルデュマの「三銃士」で使われ広まったとされる言葉です。
意味は「一人はみんなのために、みんなは一人のために」と訳されることが多いそうです。

ところがこの言葉、別の意味に解釈した人がいます。
それは惜しくもこの10月20日53歳の若さで世を去ったミスターラグビー平尾誠二さん。

平尾さんによると「一人はみんなのために、みんなは一つのために」と解釈するのがよいというのです。(平尾誠二「理不尽に勝つ」(PHP研究所))
ここで言われている「一つ」とはおそらく「勝利」という目標を意味していると思われます。

私はこの1文を読んでふとあることに思い当りました。
もしこの解釈を私たち一人一人に当てはめたら、と。
私たちはできることなら一生健康でありたいと願っています。
そしてその願いをかなえるために一人一人の生命体が日々活動しています。

私たちのからだの中での「一人」とは60兆とも100兆ともいわれる細胞一つ一つと考えることができます。
「みんな」とはその細胞が集まってできた私たちのからだ全体であるといってよいでしょう。

つまり私たちの一つ一つの細胞は集まって私たちのからだ全体を作り私たちのからだは生命力を強化し、健やかな人生が送れるよう働いているのです。
だから私たちの生命活動を脅かすようなウイルスや細菌、がん細胞などが体を蝕み始めるとこれを全細胞が一丸となって排除しようとするのです。

私たちが行っているはり治療。
皆さんに施すはり数はそんなに多くありませんし、刺激はわずかです。
しかし、一つの細胞に与えた刺激は体全体に広がり、その刺激を受けた体は生命活動を活発にし、健康な日々のために働きます。

ちょっとあちこちが痛い、体の調子が何となく良くない、毎日気分がすぐれない。
そんな症状でお悩みのあなた、一度私たちが行う経絡治療というはり灸治療においでになりませんか。
そして気になるような症状はないのだが、というあなたも、より健やかな日常を過ごすために経絡治療を受けてみませんか。

電話、メールでのご相談をお待ちしています。

「忠臣は二君に仕えず」

1997年(平成9年)8月29日、私はいつものように行きつけの居酒屋で週末を楽しんでいました。
そんな折いつもの常連客がこんな話を持ち掛けてきました。
「先生、イヌを飼わないかい、ラブラドール。訓練次第では盲導犬にもなるかもしれないしさ。」

あまりにも急な話。イヌなど飼ったことのない私にとっては降ってわいたような話。即座の返事などできるわけがありません。
とりあえず妻を呼び「とにかく遭うだけ遭ってみようか」ということにはしたのですが・・・・。

そして翌日。「遭うだけ遭ってみる」つもりは、母親の後をゆったり追いかけるぬいぐるみのような白い子犬を見た瞬間にもうダメ。
グレートピレニーズ犬、メルとの暮らしの始まりです。

その日から我が家にはファミリーでハッピーな日々がやってきました。
それは足掛け14年続きました。

史記』に「忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫を更えず」という一節があります。
真心こめて使える臣下は決して主人を変えず、貞節を守る女性は二人の夫に仕えるようなことはしないといういみです。

イヌは群れで行動する動物です。
飼い主に忠実であるのもその特徴です。
まさに「忠臣は二君に仕えず」を地でいっているようなものです。
もっともメルの場合、「貞女は二夫を更えず」というわけにはいかなかったようで、その時期になるとオス犬を前にシッポを右に倒したり左に倒したりしていましたが・・・・。
そんなメルとの楽しかった日々と忠義心を大切にしたく、彼女の死後新たに犬を飼うということはしませんでしたし、そういう気にもなりませんでした。

「ドクターショッピング」というのがあります。
自分の抱えている症状をもっと理解してほしい、もっと自分が納得できる治療法があるはずだとあちこちのお医者さんを訪ね歩く方々の行動を指し示した言葉です。

ドクターショッピングをする人の中にはどこかで「あの先生は良い先生だ」という情報を得ると日本全国はおろか、世界各地にまで足を運ぶ方々もいます。

患者さんの中には現時点ではほとんど治療方法がないという難病を抱えておられる方もいます。
セカンドオピニオンを受けることで治療に対する考え方が広がる場合も多くあります。
こういう方々はドクターショッピングをしているわけではないのでこの話からは除外です。

私が考える「ドクターショッピング」というのは、ベターな対応と治療を行うお医者さんを求めて医療機関を受診するのではなく、限りなくベストの対応と治療を求めてあちこちのお医者さんを巡る人たちのことです。
ベストには限界がありません。
だからもっと私のことをよく理解してくれるお医者さんがいるはずだ。
もっと良い治療があるに違いない。
それがドクターショッピングになるのです。

私はドクターではありませんから患者さんからのドクターショッピングの対象になることはありません。でも、鍼灸治療院でも同様なことは起こっています。

よく、「あちこちの鍼灸院に行ったがいっこうに症状が良くならない。ホームページを見たらここなら良いのではと思い来院しました。」という患者さんがお見えになります。
そういった患者さんには私もベストを尽くしますが「我、術未だ至らざる」で長続きしません。

長くおいでいただいている患者さんは私に、よりベターな対応と治療を求めている方々です。
長くおいでいただくと文字通り「気心が知れる」ようになる。
つまり気の交流が進んでより早く患者さんの現す症状の変化に気づきより良い治療に導けるようです。

患者さんは私の臣下でもありませんし、私は患者さんの君主でもありません。
しかしお互いに「忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫を更えず」という考え方を持ち続けているうちは、患者さんも良い方向に心身が養われますし、私の技術の向上の日々も続くことと確信しています。

200805312011