1997年(平成9年)8月29日、私はいつものように行きつけの居酒屋で週末を楽しんでいました。
そんな折いつもの常連客がこんな話を持ち掛けてきました。
「先生、イヌを飼わないかい、ラブラドール。訓練次第では盲導犬にもなるかもしれないしさ。」
あまりにも急な話。イヌなど飼ったことのない私にとっては降ってわいたような話。即座の返事などできるわけがありません。
とりあえず妻を呼び「とにかく遭うだけ遭ってみようか」ということにはしたのですが・・・・。
そして翌日。「遭うだけ遭ってみる」つもりは、母親の後をゆったり追いかけるぬいぐるみのような白い子犬を見た瞬間にもうダメ。
グレートピレニーズ犬、メルとの暮らしの始まりです。
その日から我が家にはファミリーでハッピーな日々がやってきました。
それは足掛け14年続きました。
史記』に「忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫を更えず」という一節があります。
真心こめて使える臣下は決して主人を変えず、貞節を守る女性は二人の夫に仕えるようなことはしないといういみです。
イヌは群れで行動する動物です。
飼い主に忠実であるのもその特徴です。
まさに「忠臣は二君に仕えず」を地でいっているようなものです。
もっともメルの場合、「貞女は二夫を更えず」というわけにはいかなかったようで、その時期になるとオス犬を前にシッポを右に倒したり左に倒したりしていましたが・・・・。
そんなメルとの楽しかった日々と忠義心を大切にしたく、彼女の死後新たに犬を飼うということはしませんでしたし、そういう気にもなりませんでした。
「ドクターショッピング」というのがあります。
自分の抱えている症状をもっと理解してほしい、もっと自分が納得できる治療法があるはずだとあちこちのお医者さんを訪ね歩く方々の行動を指し示した言葉です。
ドクターショッピングをする人の中にはどこかで「あの先生は良い先生だ」という情報を得ると日本全国はおろか、世界各地にまで足を運ぶ方々もいます。
患者さんの中には現時点ではほとんど治療方法がないという難病を抱えておられる方もいます。
セカンドオピニオンを受けることで治療に対する考え方が広がる場合も多くあります。
こういう方々はドクターショッピングをしているわけではないのでこの話からは除外です。
私が考える「ドクターショッピング」というのは、ベターな対応と治療を行うお医者さんを求めて医療機関を受診するのではなく、限りなくベストの対応と治療を求めてあちこちのお医者さんを巡る人たちのことです。
ベストには限界がありません。
だからもっと私のことをよく理解してくれるお医者さんがいるはずだ。
もっと良い治療があるに違いない。
それがドクターショッピングになるのです。
私はドクターではありませんから患者さんからのドクターショッピングの対象になることはありません。でも、鍼灸治療院でも同様なことは起こっています。
よく、「あちこちの鍼灸院に行ったがいっこうに症状が良くならない。ホームページを見たらここなら良いのではと思い来院しました。」という患者さんがお見えになります。
そういった患者さんには私もベストを尽くしますが「我、術未だ至らざる」で長続きしません。
長くおいでいただいている患者さんは私に、よりベターな対応と治療を求めている方々です。
長くおいでいただくと文字通り「気心が知れる」ようになる。
つまり気の交流が進んでより早く患者さんの現す症状の変化に気づきより良い治療に導けるようです。
患者さんは私の臣下でもありませんし、私は患者さんの君主でもありません。
しかしお互いに「忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫を更えず」という考え方を持ち続けているうちは、患者さんも良い方向に心身が養われますし、私の技術の向上の日々も続くことと確信しています。
