腰痛の患者様は4日で寛解しました。

あれは10月のちょっと冷え込みがきつい日だったかと思います。

50代前半の中肉中背で比較的がっしりした体型の建設会社の社長さんDさんがお見えになりました。

話を伺うとDさんは腰痛がひどくなったとのこと。

さらに詳しくお話しいただくとこんな症状。

「建設会社の社長といってもうちは大企業じゃないから社長室にでんと構えているなんて言うことはないのさ。
従業員と一緒にあちこちの建築現場を飛び回るなんて言うことがしょっちゅう。
それでね、ここ2,3年軽い腰の痛みを感じるようになってね。
それでもビール飲んで一晩寝れば治ることも多かったんであまり気にしないようにしていたんだ。
だけどここ数日松前の方の現場に行ってるんだけど、車、4時間乗りっぱなしだろう。
日を追うごとに腰が重だるく、だる痛くなってね。
今日は特に冷え込んだせいもあって傷みが強くなったもんで仕事帰りに診てもらおうと思ってきたんだ。」

「特にどの辺りが痛いですか」と聞くと、「この辺り」といわゆる腰の部分を両手で触ります。

Dさんが示したところは肋骨と腰骨(腸骨)の間の背骨しか支えがない柔らかな部分です。

その部分に触れると全体が突っ張って硬くなっていて背骨の両脇が筋状にこっています。

お話を伺い、体全体を念入りにチェックし、脈を診たりおなかを診るなどの東洋医学的な診察を行った結果どうも腎臓に問題があるように思えました。

腎臓は現代医学でも体の水分量を調節したり、体内の老廃物を排出したり、血圧の腸節に関与するなど大変重要な働きをしています。
それにもまして東洋医学ではそれ以上にこの臓器を重視しています。

というのも腎臓は東洋医学では生命力を維持する根本臓器と考えているからです。

しかし、東洋医学でいう腎臓の問題といっても現代医学でいうような蛋白尿が出るとか慢性的な腎障害があるとか、近い将来人工透析を受けなければならないなどという状態ではありません。

あくまでも他の内臓から比べると働きが鈍っているというだけです。

自然現象でいうと腎臓は冬によく働きます。
水と深い関係を持っています。
そのことから冷えも腎臓と関係があります。
腎臓がしっかりしていればこそ寒い冬も我々は平穏に暮らすことができているのです。

ところがまだ腎臓が十分働ける準備ができていない10月の思わぬ寒さ。
そんな季節に向かっての欠かさぬビール。
水分の取りすぎの結果冷えを助長することになりました。
そんな折の長時間の運転。

ここでは詳しくは延べませんが、腎臓と脾臓(現在の膵臓)のバランスを崩し腰痛を悪化させたものと思われました。

そこで腎臓の働きを高めるとともに他の内蔵の働きをも調和させることを目的にはり灸治療を行いました。

治療終了後、皮膚がピーンと張りつめあんなに硬かった腰部がしっかり弾力性を持ち、筋張りもほとんど目立たなくなりました。

今回の治療で何よりも驚いたのは座るのにもあお向けになるにも緩慢だった動作が、治療終了後には素早くメリハリのあるものになっていたことでした。

本来ならばこのような場合、2,3日休養を取って腰を十分保護しなければならないところですが、Dさんが現場を取り仕切らなければ仕事になりません。
まだまだ松前までの車の往復は続きそう。
そこでしばらく仕事帰りに当院に寄るよう指示し1回目の治療を終わりました。

以降Dさん、4日続けて来院。
安静にしているわけではないので来院時には腰の重だるさや痛みがあり、突っ張りや筋張りも認められましたが、日に日にそれらは改善され4日目終了後にはかなり症状は寛解しました。

その後、週1回のペースで来院し腰はかなり改善されました。

Dさん、今は健康維持の目的で10日から2週間に1度来院しています。

(参考)
・腰痛の考え方

かつて腰痛は長年の姿勢の異常、過激な運動や過労に伴う腰の骨や筋肉の障害によって起こるもの、内臓の異状が腰の痛みとなって現れるケースなどがその原因として考えられていました。
ところが最近は検査をしても痛みの原因を特定することができないといういケースが腰痛の85%にも上るという報告も成されるようになりました。

専門医の間では以前から腰痛と画像診断との因果関係がない場合があることは知られていたようですが、実際に何が腰痛の原因であるかについてはよくわかっていなかったとのことです。
しかし、1995年にスイスの研究者によって、腰痛にストレスや不安などの心理・社会的要因が大きく影響していることが明らかにされ、これを機に腰痛に対する考え方が大きく見直されることとなりました。

今回登場いただいたDさんの場合は姿勢性腰痛の可能性が高いので、ストレスで腰痛が起こる仕組みについてはいずれかの機会に譲りたいと思いますが、会社経営のご苦労なども考えるとストレスとの関係は無視できないかと思います。

ただ今回のDさんの場合は長時間同じ姿勢で車の運転をするということから起こった腰痛であり、それに加齢や慢性的な運動不足、長年の姿勢異常が絡んだ腰痛と思われたため、比較的早期に回復したものと考えています。
もちろんストレスに対して効果の高いはり灸も早期回復に影響を与えたことは言うまでもありません。

(備考1)
本欄で紹介させていただいたような患者様がすべてはり灸治療で改善されるというものではありません。
わたくし共は家庭医などのお医者様とともに皆様の健康維持、管理に参与させていただくものであります。
患者様皆様におかれましてはご自分の健康状態にいつも関心をお寄せいただくとともに、医療機関や私たちはり灸師を適切にご利用していただければ幸いに存じます。

(備考2)
本欄は患者様の許可を得て掲載させていただいているものであります。
許可のない健康情報、医療情報を本欄に載せることはありませんので安心して本院のはり灸を受けていただきたいと思います。