「うつ病」

ある日20代半ば、長身ですが実際よりもちょっと太めに見える女性が来院されました。
お仕事を伺うと少し間があって、「ある会社の事務を担当しています」とのことでした。

相談に見えられた上司からのお話によりますとーー

C子さんは入社当時は制服の似合うとても明るい素直な女性だったそうです。
仕事ぶりはまじめで几帳面。
人の話もよく聞きお見えになるお客様の評判も良かったようです。
でもまじめすぎて冗談も通じないところがあると笑っておられる方もあったとか。
そんな彼女「最近ちょっと変なんだよね」と上司。

「最近は午前中ぼーっとしてることが多いし頼んだ仕事も遅れがち。
こちらがせかすとようやく出来上がってくるようなあんばいで・・・・。
それに最近月曜っていうと休む日が多くなって・・・・。
どこか具合でも悪いんじゃないかと心配している。
ちょっと見てやってもらえないだろうか」
とのこと。

それから数週間後C子さんはやってきました。

お話を聞くと、
「朝浮わーっとした感じがし、起きられない。夜の眠りが浅くちょっとした物音でも目が覚める。
食欲がない。慢性の便秘が続く。
生理は遅れがちだったがここ1年ぐらいはない」
などと訴えました。

手足やおなか、背中などに触れてみると、最近の若い女性に時折みられるのですが、キメ荒くざらざらして艶のない肌をしていました。
足は冷え、ひざより下の骨の上などを押すと後ができるようなむくみがありました。

あまり薬は飲みたくないとのことで医療にもかかっていないようでした。

お話を伺い、体全体を念入りにチェックした感じでは東洋医学でいう「気」と「血」がうまく前進を巡っていないことから起こっている症状だということが分かりました。

「気」と「血」。
これは現代医学でいえば食物が消化吸収され得られる栄養素や、呼吸によって得られる酸素のことだといってもよいかと思います。
その栄養素や纂疏が血液中に溶け込み生命活動を維持したり体を動かすエネルギー源になる。
そういうものが「気」であり「血であります。
C子さんの場合はこの「気」と「血」の巡りが悪いために様々な全身症状が起こっているのだと考えました。

そこで悪くなっているC子さんの気血の巡りを改善することを目的にはり灸治療を行いました。

治療後C子さんのお腹や背中、手足を見ますとさすが若い女性、肌に艶と潤いがだいぶ戻ってきました。
と同時にむくみも小さくなりました。

C子さんは「からだが伸びたような気がする」といって来院時よりもさわやかな様子で帰宅しました。

このようにC子さんのうつに伴ういろいろな症状の改善を目的に週2回程度3ヵ月ちょっとはり灸治療を行いました。
治療開始当初は朝起きにくいとか午前中にぼーっとすることが多いなどうつ的症状が行きつ戻りつしていました。
特に天候に左右されることが多く、天気の良い日は比較的状態が良いのですが低く雲が垂れ込めている費や雨の日は銚子川類とのことでした。
しかし幸いなことに季節も春から初夏に向かうようになりうつ症状は徐々に改善の方向に向かいました。
現在は更なる改善と再発予防を目的に週1回程度来院していただいています。

(参考1)
うつの診断基準
下記に掲げる症状が五つ以上ある方は「うつ」の可能性があります。

・憂うつ、気分の落ち込み
・興味や喜びの喪失
・食欲の異常
・睡眠の異常
・ソワソワする、または、体が重く感じる
・疲れやすい
・自分を責める
・思考力・集中力の低下
・死にたいと思う

ただし、上記にあげた該当項目の五つの中には「憂うつ、気分の落ち込み」、「興味や喜びの喪失」のどちらかが含まれること、かつ、ほとんど1日中、2週間以上続き、仕事、学校、家庭などで何らかの問題が生じている場合「うつ病」と診断されます。
しかしこれはあなたがうつ病かどうかの目安の判断になるものであり、きちんとした診断は専門医の診察を受けることが大切です。

(参考2)
はり灸治療でより大きな効果が期待できる方
私の経験でははり灸治療によって次のような方々の回復が大きく期待されるかと思っています。

・服薬している薬の種類と量がより少ない方
・薬への依存度が低い方
・本疾患に対しての理解と経験値が深く高い専門医を受診されている方

しかし服薬している薬の量が多くともお医者様との連携を密に取りきちんとしたアドバイスの元、少しずつその量を減らす方向を考えておられる方は十分症状改善の可能性がありますし、改善のための最大の努力を重ねていきたいと思っています。