三方良し

先日ある商売をされている患者さんがこんな話をしてくれました。
「先生、近江商人の心得として『三方よし』っていうのがあるんだけど知ってるかい。」
「何ですかそれ」と私が聞くとこう教えてくれました。
「やあ、こういうことらしいんだねえ。
売り手も買い手もそして世間もみな良しというような商売をしなさいっていうことなんだそうだ。
私はいつもこれを心掛けて仕事をしてるんだけどね、なかなかそれが難しいんだよね。」
「それって具体的にはどういうことなんですか。」と私。
「ああ、それね。
売り手、つまり私どもも満足する。
買い手、つまりお客様も満足する。
そしてこれが一番難しいんだけれど、私たちの商売を通じて社会に何らかの貢献するっていうことだな。」
そんな話をしているうちに治療は終わったのですが・・・・・。

あとでこの話をじっくり考えてみると確かに商売をしていて私もあなたも世の中も皆が満足するような商売はとても大変なことだと気付きました。
そしてそれは商売にだけいえることではなく、常にだれかを通じて世の中と対峙している私たちの日常や仕事でも心掛けなければいけないことだとも。

ところで、私がかかわっているはり灸という仕事。
私だけが患者さんの病苦を取り除いたような気になっているだけで本当においでいただく皆さんに喜んでもらっているだろうか。
世の中に何らかの形で貢献しているだろうか。
そう自問自答すると少し反省でした。

とはいってもこの仕事、病から1日も早く抜け出したいという方にはり灸を通じて笑顔を取り戻して差し上げることができる。
それだけの優れた技術を持てば十分社会にも貢献できる素晴らしい仕事だと思います。
ただ、私にそれだけの技術力があるかどうか、そこが反省点なのですが・・・・・。

商売だけではなく、世の中自分だけが満足すればそれでよいという風潮が蔓延している今日、もう一度近江商人の心得「三方良し」、みんなで考えてみたいものです。

東京五輪

2016年8月22日(日本時間)リオデジャネイロで開かれた第31回オリンピックが閉幕した。
別の言い方をすれば東京オリンピック2020がスタートを切ったということができる。

はり灸師である私は患者といろいろな話をする。
その中にとても印象に残ったこんな話がある。
患者のそのつぶやきにちょっと耳を傾けてみたい。

「ブラジルでやるオリンピックはいいよねえ。
だって向こうは今冬から春に向かう時期だろう。
気温だって20度前後だっていうじゃないか。
選手たちは自分たちの力を目いっぱい発揮できる環境にあるよな。
でも東京五輪を見てごらん。
7月24日から8月9日だぜ。
暑い真っ盛り、いや、蒸し暑い真っ盛りだぜ。
なんでこんな時期にオリンピックをやるのかねえ。
やっぱり4年に1度のスポーツの祭典だもの。
最も自分たちの力が発揮できる環境、ベストコンディションで競技に取り組める環境でやらせてやりたいよね。
日本でやるんならやっぱり前と同じ秋かなあ。
なぜその時期にオリンピックがやれないんだろうって思ってたら、何でもアメリカのテレビ局の思惑があるっていうじゃないか。
10月とか11月のアメリカは大リーグも終盤からワールドシリーズへ。
アメフトも始まるしNBAも開幕する。
1年で1番スポーツが盛り上がる時期なんだってなあ。
そんな時期にオリンピックをやってもらってもテレビ局は高視聴率が取れない。
高視聴率が取れないということはスポンサーも付きにくい。
だからオリンピックをやるのはみんなが観てくれる可能性の高い夏場がいいんだっていうんだけど・・・・・・。
言ってることは分かるんだけども、ある意味勝手な言い分じゃないかなあっても思うんだよね。
だってオリンピックって世界のアスリートが一堂に会する場だろう。
それだったら開催国で一番選手が活躍できて記録も望めるような環境でやらせてやりたいじゃないか。
それをある国の事情やテレビ局のご都合で開催日を決めるのはなんか変だなあって思うんだよね。
これってオリンピックに参加する選手をゲームのコマかゲームに使うチップみたいに考えてねえ?
オリンピックはスポーツの祭典、平和の祭典なんて言うけれど、何か人間の原点みたいなものを忘れてるんじゃないかなあって思うんだけど……。
先生どう思う?」

私は「まったくその通りですね。」とうなずいた。

田舎の小さな街の鍼灸治療院の片隅でこんなことをつぶやいても何も状況が変わるものではない。
が、「よくぞ言ってくれた」と心では患者に喝采の拍手を送った。